h(cat)

h(cat)

インスタレーション|2022

中橋 侑里

東京大学大学院

自宅のタイムラプスでは、人は常識や家具に従って行動が決まっているようにみえる。このような習慣が変わることはほとんどない。一方で、私たちを取り巻く社会や環境は、目まぐるしく変動し不確実なものである。その変化に、私たちは対応できているのか。 人と猫は同じ動物であり、衣食住を共にしている。しかし猫は、高い場所から見下ろしたり、椅子の下で隠れたり、人と異なる行動をみせる。これらには、人が変えられない行動を、緩やかに打ち破いてくれるような教えがあるのではないか。 AirTagを活用して、人と猫の行動ログを記録した。同時に猫が敏感だという温度情報も併せて示す。そしてそれぞれの行動ログを、居室を模した展示空間に毛糸を用いて表現する。鑑賞者が自身の視点や身体を伴って、作品について主体的に考察・対話できるようにする。 人も使えそうなスペースを発見したり、床が中心になった人の動きを理解したり、猫と相対的に、居室や人の特徴が浮んでくる。そして周囲の環境に柔軟に身を委ねる猫に倣って、人の行動や習慣を再考する。猫の視点を織り交ぜた価値観は、人工物を外側から見直し、人間と自然のバランスをとってくれるのではないか。

審査員コメント

  • 生活導線の軌跡を立体記録してアート化する試みは面白いと思いました。家族写真や肖像画などと同じように、誰かが確かにそこに生きていた大切な証として、そこになにか別の表現と伝達の手段がある可能性を感じてやみません。たとえそれそのものの記憶を共有していなくても、見る人々にその軌跡の中に何かしらのストーリーを想起させるのではないでしょうか?そういう意味では、とてもアートな作品かと思います。

    白井 宏旨 演出/ディレクター/株式会社グラフィニカ