「再来さんや 小さい芸術祭」2021

「再来さんや 小さい芸術祭」2021

Socially Engaged Art Practice/Art Festival|2022

楊 璞頼馨/YANG Pulaixin 黄 志逍(コウ シショウ)/Huang Zhixiao

武蔵野美術大学大学院

アート部門 SILVER

ART DIVISION SILVER

本作は、東京山谷「さんや」地域を舞台に作られた作品群をガイドブックに沿って探しながら、街歩きツアーする小さな芸術祭である。外国人を主なメンバーとして構成した企画・芸術家団体は、本当の異邦人ーーさんやを知らなかった故にステレオタイプを超えたの多様な視点で、さんや地域の生活を体験し、歴史を調査し、当地の人々と交流し、作品展示やワークショップを行った。「芸術」という偶然なきっかけを通じて、さんやに住む人も外部の人も、コミュニティへの理解を深め、「いま、ここ」こそ生み出せる雰囲気や生き方を尊重し、人間の多様性を受け入れ、「さんや異邦人」の生活を見直すことを目的としている。さんやで起きているダイバーシティの在り方を鑑みつつ問題提起を行い、また、何らかの形で皆さまに刺激を提供することができれば幸いである。またアニュアルという持続可能な形式により、この地域の潜在的なエネルギーと価値を呼び起こし続けることができればと願っている。

審査員コメント

  • 日本には多くの芸術祭が存在するが、ほとんどが地域活性化を目的としたアートツーリズムが主たる存在理由になっている。その中でこの芸術祭は、社会と切り離されつつある人々と場所を国内外作家が見つめ、現状を炙り出し繋がりを再構築していく過程である。その場所に住む人々のための芸術祭であり、芸術と祭はなんのためにあるのか、改めて私たちに問いかけてくる。アートがどのように受け入れられていくのか、その場所に住み続ける人たちとの芸術祭という試みと表現の可能性を広げることを評価したい。

    滝戸 ドリタ アーティスト/ディレクター/デザイナー
  • 日本の高度成長期を支えたにもかかわらず、バブル崩壊とともにドヤ街と呼ばれ、さらに高齢化とともに福祉介護が必要となるという東京の山谷は、ある意味で日本の現実を凝縮したような街である。この「さんや」地域を舞台に、丹念なリサーチと時間を掛けた交流に基づいて作られた「小さな芸術祭」は、異なるひとびとが「一緒に生きて考えること」こそがアートの核心にあると気づかせてくれる。制作プロセスだけでなく、それを記録として共有する方法や、さまざまな関係団体との協議や交渉も含め、これは本格的な社会実践であり、他の芸術祭が学ぶ点は大いにある。ドクメンタ15は1回限りだが、こちらは「再来」を冠して持続する、同時代世界とダイレクトにつながる芸術祭を高く評価したい。

    港 千尋 写真家/多摩美術大学情報デザイン学科教授