Mechanical Brain Hacking

Mechanical Brain Hacking

インタラクティブアート|2022

高下 修聡 田中 尚輝, 鈴木 大河

東京大学大学院

アート部門 SILVER

ART DIVISION SILVER

自らの脳を編集したくはないだろうか?当作品は、右手を除く手足が動かない壊れかけのロボットとなり、自らの脳を開いて脳内回路を修理し、身体システムをリアルタイムに修復・改変する体験を提供する。ロボット脳内の「意識モジュール」から四肢へ伸びる回路を、後頭部側に配置された手術マシンを用いて繋ぎ直すことにより、体験者は四肢の操作を獲得する。また、回路を繋ぎ間違えた時には、その繋ぎ方に応じ現実と異なった形で四肢が動作するようになる。例えば、意識モジュールの右腕動作出力部から左足動作入力部へと回路を繋いだ時には、現実の右腕に合わせロボットの左足が動作する。手術マシンに脳を侵される感覚を後頭部に配置した振動子マトリックスによる触覚刺激により、脳内回路が繋がり身体操作を獲得する(即ち、ロボットとして身体部位が新たに「通電」し、動き出す)感覚を筋電気刺激装置による電気刺激により提示する。生来の血が通う肉体では不可能である自らの脳内の編集と、それに伴う身体システムの変容を通し、体験者は「編集可能な身体性」に触れ、未来の人間拡張技術と自らの身体の在り方について考えを深めるだろう。

審査員コメント

  • 自らの脳を手術するように、ロボットを模した自らのアバターを結線することによって「脳をいじられている感覚」を得られるという本作だが、この作品の体験においてそれと同じくらい奇妙なのは、結線を誤った際の四肢の動きだろう。自分のアバターが、身体保持感を維持したまま、身体イメージからずれた動きをするという経験は、まさに自らの意思と身体が引き裂かれたような経験になりうるだろう。

    永田 康祐 アーティスト
  • ARやVRの技術が一般化し、現実空間に仮想コンテンツが登場する経験に新規性を見出しづらくなっている。そうした中、本作は壊れたロボットになりかわり、自分で自分の脳を修復して身体をリアルタイムで変えていく手法をとっており、従来の拡張型体験ではなく、循環型VRとでも言うべきシステムになっている点に魅力を感じる。アート部門、という視点で捉えると、自分の脳をいじっている自分とは、一体誰なのか。私を私たらしめるものは何なのか、という形而上学的な問いを、ついにフィジカルに考える時がきたのだという時代の転換点を見せつけてくれる。コンセプトというよりは技術優位で開発された作品だと思うが、後から派生していく文脈の大きさが楽しみである。

    加藤 育子 スパイラル キュレーター