お持ち帰りください。

お持ち帰りください。

インスタレーション|2022

藤中 康輝

東京芸術大学大学院

アート部門 BRONZE

ART DIVISION BRONZE

入口で木の棒を受け取って部屋に入ると、壁の穴に棒をいれるように指示される。ぐにっとした感触を指に感じながら棒をいれて次の部屋に進むと、先ほどの棒が壁から突き出ており、それを見ながらプリッツを食べるよう指示がある。出口の手前には次の文言が書かれている。 ・木の棒は、そのままお持ち帰りください。 ・プリッツは、通常1-2 日程度で排泄されます。 ・あなたは、左の出口から外に出てください。 持ち帰るように指示される3つの棒〈木の棒・プリッツ・身体〉はそれぞれ筒〈壁の穴・身体・小屋〉と対応している。これらの対応関係は小屋を出た自分と排泄物との構造的な類似を示し、実際に指や唇や体を使って体験をすることで、後味の悪いおとぎ話のような感触を鑑賞者(の胃)に(物理的に)残す。 筒の通り抜けを経て「食べることによる物質的な変容」と「鑑賞による精神的な変容」が示唆される。体験者は自身の連続性に疑問を投げかけられるだろう。

審査員コメント

  • 本コンテストで毎年大きな存在感を残してきたOku Projectから一転、個人作品としての応募となった今回。昨年、私が(一方的に)「メディア気配派」と評したユニークネスは健在で、本作もまた「在/不在」というテーマがコミカルな仕掛けのなかに見え隠れする。藤中作品に共通して興味深いのは、ある「指示」を鑑賞者に投げかけることによって、鑑賞者と作品の間に一種の共犯関係が生まれることだ。本作では「プリッツを食べる」という行為を鑑賞者に依頼することで、鑑賞者は作品の一部を自身の体内に取り込み、最後には「食べてしまった」という奇妙な後味の悪さを残す。この構造が非常に秀逸で、鑑賞者の感じるフィジカルな身体感覚と、その行為自体が作品化されるというメタ的な身体とが二重に重なり合う。また、本作のタイトルにある「持ち帰る」ものとは果たして何だったのかと考え始めるとまた面白い。「存在」の意味を深く問いかける作家として、今後の活躍にも期待したい。

    塚田 有那 編集者/キュレーター