Tokyo Happiness Price Project (Case 01: Rena Itoh)

Tokyo Happiness Price Project (Case 01: Rena Itoh)

映像|2021

真鍋 創人

慶應義塾大学

本作は個人の幸福を株のように取引できるサービスを題材とした映像作品だ。会社の株価が投資家の売買によって変動するように、本サービスでは対象銘柄のSNSの投稿を判断材料として、HAPという幸福度株が売買され、価格が決まる。投資家はSNSの投稿から「幸せそうだな」「この人の幸せを応援したいな」という気持ちでHAPを購入するが、投げ銭のように返ってこないお金ではなく、株として売買する仕組みにすることで利益のみを目的とした投機が可能になる。投機は「価格」と「価値」の乖離を生み出し、それを「SNSを通して評価される幸せ」と「自らが感じる生の幸せ」の乖離とリンクさせることで、SNS文化における新たな幸福観を浮き彫りにする。また、株式をモチーフとして引用し、幸福度の上場/インサイダー取引/株主の圧力などのキーワードに加えて「推し文化」を絡め、幸福とインフルエンサー経済の関係を探る。本映像は、主人公・伊藤玲奈がHAPの購入/上場/高騰/下落を通して市場に巻き込まれていく一連の流れを、主人公のデスクを主観視点で追う形式で展開していく。

審査員コメント

  • ライフスタイルを提案することで注目を集め、注目を金銭に交換するインフルエンサー的な生がポピュラリティを獲得する現在において、幸福さえもが注目をその源泉にする。本作品が描く、個人の幸福が株式のように取引される社会は、ディストピアSF的なスペキュレーションであるというよりもむしろ、アテンション・エコノミーが個人的な幸福観にまでその支配を拡大している現代の寓話だといえるだろう。

    永田 康祐 アーティスト