Aseptic Kiss

彫刻|2020

花形 槙

多摩美術大学大学院

作者Webサイト https://shinhanagata.com/

今私たちは、空間を共有すること、皮膚や粘膜を接触することができなくなった世界を生きている。現実世界で常に覆い隠され、マスクに切り取られてしまった口元たちは、人知れずマスクの裏側から通じるこの亜空間へとやってくる。ここは、完全なる無菌の空間。自由を得た口元たちは濃厚な”接触”を求め合う。だがそれも、ゲームエンジンの衝突計算によって導かれた、仮想の”接触”なのだ。そして、たくさんの口元が寄り集まった全体として、一つのキネティックな彫刻となる。この様は、デジタル化され、全てが隔離される世界において、私たちを存在させる身体が意味を失いゆくことへの、哀しき反動にも見えてくる。

審査員コメント

  • パンデミック以降の社会状況を描くにあたって、マスクを主題とした作品は数多く見られたが、なかでも印象的だったのが本作。口という粘膜に覆われた器官の感触がありありと記憶に残っている。身体性が希薄になりやすい昨今、「接触」という行為にはらむ一種の気持ち悪さを仮想世界でメタ化するというアイデアを評価したい。

    塚田 有那 編集者/キュレーター