The President インターネット世界における欲望の肖像

The President インターネット世界における欲望の肖像

写真|2017

丸山 律子

武蔵野美術大学大学院

アート部門 GOLD

ART DIVISION GOLD

これはインターネット上における欲望の肖像である。インターネットはかつてのような、自由で性善的なメディアではなくなった。なぜなら、今のインターネットはPV数を稼いだ者が勝者になるからだ。結果的に、人を情動的に動かすことがPVを稼ぐためには一番手っ取り早い方法だ。例えば、2016年のアメリカ大統領選挙におけるフェイクニュースの影響力は多大なるものだった。大統領選挙中、広告料を目的としたフェイクニュースが拡散された。googleなどのインターネット検索エンジンはネットに書かれている有象無象の記事を(それが真実でも嘘でも)オートマティックにピックアップしている。必然的にPV数が多い情動的なニュースが検索結果にも反映されてくる。

審査員コメント

  • アートは、「作家の意思」と「表現方法」と「提示の仕方」の3っつの要素で成り立つ。そもそもポートレートは、権力者が画家に指示して描かせる物だった。こう描かれたいという注文主の意図が、時間をかけてコツコツ描かれる。作者の意思で短時間で仕上げる似顔絵とは違う。丸山の作品は、インターネットに流布されるプレジデント候補者の写真に反応する視聴者に数に対応してその肖像は変化する。候補者の写真のビックデータを最新のプログラミング技術で加工される。まさに現代のポートレートだ。

    陣内 利博 武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科 教授
  • インターネットに存在するデータはあらゆる目的が混在している。固有名詞の検索結果から得られた複数の画像の平均化という単純な手法を用いながらも、その出力画像は閲覧者が共有する平均的なイメージ(傾向)であるとは限らない。それは、一般者のイメージを反映したもの(象徴)なのか、あるいは、一人もしくは数人の操作により意図的に作り上げられたもの(欲望)なのか。本作はそのようなインターネットに潜む危うさを醸し出している。

    藤木 淳 アーティスト・表現研究