生活

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ウェブ|2015

中村 晃

多摩美術大学

作品Webサイトhttp://nakamuraakira.com

自室という狭い空間に居るときの僕が一番すなおな気持ちなので、その気持ちのまま普段部屋でやっている事を曲にし、スクロールで見せるgifアニメを並べました。自己顕示欲は強いくせに一向に部屋から出たくない僕が、ほんとは恥ずかしくてたまらないけどそれでも「ぼくってこうなんだよね」を面白おかしく伝えられれば良いなあと思います。共感を呼ぶつもりはあまり無いけれど、もしこの曲たちに何か感じる人がいるならば、その人が僕とは違う「ぼくってこうなんだよね」を照れながら伝えてほしいなあというコミュニケーションのはじまりでもあってほしいです。

審査員コメント

  • 大学生だったころ、僕は実家から大学に通っていたから、この作品に出てくるようなアパートでの一人暮らしの経験はないのだけれど、よく終電の時間なんか気にせずに飲んで、そのまま友達の家に泊まることが何度もあって、その友達のアパートがこの作品のアパートそっくりだった。ぎゅうぎゅうのワンルームで、タバコのヤニで壁紙が茶色にくすんでて、カーテンも分厚く部屋全体が薄暗かった。朝方まで飲んでるから、いつもお昼ごろに起きるのだけれど、時間感覚があんまりない。隣の部屋には同じサークルの後輩が住んでいて、そいつが彼女を連れ込む日は聞こえてくるからヘッドホンをするんだとか、そんな楽しげな話を聞くたびに一人暮らしのアパートに憧れたものだった。この作品を見ていると、そんな学生の頃の気持ちを思い出す。あと自分で音楽に合わせてスクロールしなくちゃいけないのは本当の意味でインタラクティブだと思う。

    谷口 暁彦 作家
  • 人混みのなかでも他人の体にぶつからず通行している東京の人々は、何歳くらいから、この驚異的な「技」を身につけるの?あるイギリス人が質問した。私自身も外国人だから答えは知らないけど、同じ日本のなかでも、例えば九州に行くと、人と人の間の物理的な距離が東京と異なることを体で感じたという話をした。実際、ここ数年で身の回りの空間の使い方が変化してきたという自覚があるが、それはある程度、他人との間の関係性や心理的な距離の変化を反映しているだろう。この作品のおもしろさは、「自室」という空間に見立てたweb空間の使い方と、「自室」が象徴する作者の内面、とりわけ他人に対する欲望を描いている作品世界がそっくりであることだ。スクロールの若干の不自由さ、そして可読性を高めるためにきっちり計算されているとはいいにくい構造、ゆるいテンポと日記のような歌詞の歌、肩に力の入っていない絵柄から、恥ずかしくてうまくいえないけど聞いてほしい独り言と、別に共感を求めているわけではないけど共感してもらえるとすごく嬉しいという気持ちが伝わってくる。おそらくこの絶妙なバランスは「技」よりは「素」ではないかと思う(であってほしい)。

    馬 定延(マ・ジョンヨン) メディアアート研究・批評
  • とても好きです。今回イチオシです。何か特別な事をしている訳ではないと思いますが、ゆるい音楽とゆるい絵によって私のどこかにあるスイッチが押されてしまいました。コメントを求められて少し困っています、好きだから仕方ないじゃないか…と職務放棄をしてしまいそうです。技術的な凄さや目新しさといった物を感じる作品ではありませんが、WEBに置いてある全ての作品が徹底して「ポップな気怠さ」を演出しきれている部分がテーマとは裏腹にとても潔く感じました。一見チープで手抜きとも取れる表現ではありますが、その表現を貫いたからこそチープさを感じさせる事もなく最後まで魅せる事のできる物になっていると思います。

    小村 一生 プロデューサー/ワンオアエイト
  • 「新しい音楽PVのスタイルを確立」というと大げさだろうし、それというにはまだ甘いところもあるんだけれど、映像を垂れ流す一方的なモノでなく、ユーザーが動かしながら音楽と表現を楽しむというのは面白いと思う。だら~っと見て楽しめる、いい意味で「暇つぶしのエンターテイメント」。ただ、勝手にスクロール進めたりするとチグハグになっちゃう部分もあるので、何か策があればなぁと思った。他にもマウスオーバーで絵が動くなどの仕掛けを足すと、より良くなる気がした。

    柳 太漢 インタラクティブディレクター/博報堂アイ・スタジオ